分析方法論¶
このセクションでは、確定拠出年金商品の分析とポートフォリオ最適化に使用した方法論を詳しく説明します。
データの収集と前処理¶
使用データ¶
分析には以下のデータを使用しました:
各ファンドの基準価額の時系列データ
データソース: 各運用会社が提供する公開情報
分析期間: 各ファンドの設定来データ
前処理手順¶
データの統合
各ファンドの基準価額データを共通フォーマットに統合
欠損値の処理(前方補間を使用)
リターン計算
日次リターン = (当日基準価額 / 前日基準価額) - 1
月次リターン = 月末基準価額の変化率
年次リターン = 年末基準価額の変化率
統計量の計算
ボラティリティ = リターンの標準偏差 × √営業日数
シャープレシオ = (期待リターン - リスクフリーレート) / ボラティリティ
ポートフォリオ最適化のフレームワーク¶
現代ポートフォリオ理論(MPT)¶
本分析では、ハリー・マーコウィッツが提唱した現代ポートフォリオ理論を基礎としています。MPTの主要な前提は:
投資家はリスク回避的である
投資家は同じリスクなら高いリターンを、同じリターンなら低いリスクを好む
資産のリターンは正規分布に従う
最適化の数学的定式化¶
1. 最小リスクポートフォリオ¶
最小リスクポートフォリオは、最低のリスク(ボラティリティ)を持つポートフォリオです。
目的関数: 最小化 \(\sigma_p = \sqrt{w^T \Sigma w}\)
制約条件:
\(\sum_{i=1}^{n} w_i = 1\) (全ての配分比率の合計が1)
\(w_i \geq 0\) (空売りなし)
ここで:
\(w\) = ポートフォリオのウェイトベクトル
\(\Sigma\) = 資産間の共分散行列
\(\sigma_p\) = ポートフォリオのボラティリティ
2. 最大シャープレシオポートフォリオ¶
最大シャープレシオポートフォリオは、リスク調整後リターンが最大のポートフォリオです。
目的関数: 最大化 \(SR = \frac{r_p - r_f}{\sigma_p}\)
制約条件:
\(\sum_{i=1}^{n} w_i = 1\) (全ての配分比率の合計が1)
\(w_i \geq 0\) (空売りなし)
ここで:
\(SR\) = シャープレシオ
\(r_p = w^T r\) = ポートフォリオの期待リターン
\(r_f\) = リスクフリーレート (本分析では0.5%を使用)
\(r\) = 個別資産の期待リターンベクトル
3. 効率的フロンティア¶
効率的フロンティアは、各リスクレベルにおいて最大のリターンを提供するポートフォリオの集合です。
目的関数: 最小化 \(\sigma_p = \sqrt{w^T \Sigma w}\)
制約条件:
\(\sum_{i=1}^{n} w_i = 1\) (全ての配分比率の合計が1)
\(w_i \geq 0\) (空売りなし)
\(w^T r = \text{target_return}\) (特定の目標リターンを達成)
この最適化を異なる目標リターンレベルで繰り返すことで、効率的フロンティア全体を描画します。
最適化アルゴリズム¶
ポートフォリオ最適化には、以下のアルゴリズムとツールを使用しました:
最適化手法: 逐次二次計画法(SLSQP)
最適化ライブラリ: SciPyの
minimize関数初期値: 均等配分(各資産に同じウェイト)
収束条件: デフォルト設定(相対許容誤差 1e-6)
リスクフリーレート¶
本分析では、リスクフリーレートとして0.5%を使用しました。これは分析時点での日本の10年国債利回りに近い値を参考にしています。
分析の限界と考慮事項¶
データの限界¶
ヒストリカルデータに基づく推定: 過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません
推定誤差: 特に期待リターンの推定には不確実性が伴います
非正規性: 資産リターンの実際の分布は正規分布から逸脱する可能性があります
実務上の考慮事項¶
流動性制約: 分析では考慮していない流動性の問題が実際の投資では重要となる場合があります
取引コスト: 実際のポートフォリオ運用では取引コストが発生します
税金の影響: 税効果は個人の状況によって異なり、最適配分に影響を与える可能性があります
行動バイアス¶
損失回避: 投資家は利益より損失に敏感に反応する傾向があります
後知恵バイアス: 過去の結果を見て、それが予測可能だったと考える傾向があります
過信: 自分の能力や判断を過大評価する傾向があります
これらの限界と考慮事項を念頭に置きつつ、本分析結果を参考にすることをお勧めします。